査読されるというのは初めての経験でした。何より、内容や議論の進め方、本当に共著者のお二人にお世話になりました。聞き取りをベースとする論文の内容というのはなかなかに難しく、はたしてこれで何を調べたかったのか、当初の想定はどの辺に飛んでいったのか、何より、この論旨から何か出てくるのか、自分自身も読み返して良くわかっていない代物なのかもしれません。
とりあえず、現地報告に用いた資料を使って、内容を要約すると、
【新しい社会関係(土地改良区)とその課題】
土地改良区と、複数の維持管理会を比較することで、土地改良区単位での協調行動が低調である原因を3点にまとめた。
• 土地改良事業によって、水の希少性が解消されたため、協調行動の必要性が薄くなった。
• 土地改良区・維持管理会は集落より広範で、線引きが人工的であるため、信頼や規範が形成されにくい。
• 土地改良区・各維持管理会は、それぞれ独立した意思決定組織であるため、土地改良区は水の分配に、維持管理会は担当地域の管理に集中しがちになりやすい。
【古来の社会関係(集落)とその課題】
末端水路の維持管理を行っている集落の現状と課題を、特に農家と非農家の水路をめぐる認識の違いとしてまとめた。
• 農家:農業用水の受益範囲=集落内水路+農地部分の水路
一本の水路として、非農家も農業用水路・排水路を利用し、利益を得ている。
• 非農家:農業用水の受益範囲=集落内の水路
各家庭への引水・消流雪用水として使われる範囲が非農家の受益範囲、 残りは農家の受益範囲と認識
維持管理行動を共同で行う単位は、受益者意識を共有する範囲によって決まる。
当該地域では、以下の二点が受益者意識に影響を与えている。
① 土地改良事業の結果、上流・下流、取水口の位置による有利・不利が解消し、土地改良区管内の水利条件がほぼ均一化した。 この事が土地改良区管内での協調行動の必要性が減少する原因となっている。
② 土地改良の過程で、地域用水が農業(専用)用水に再編された、と考えられた。 この事から、生活用水路としての利用部分を除いて、水路の受益者が農家に特定されたという認識が生まれた。
【今後の課題】
A 農村の変化と農地・水・環境保全向上対策で想定される「地域ぐるみ管理」の現実
・ 管理作業の分担を、農家・非農家で分けることはマニュアル上問題無い。しかし、農業従事者が減少していった場合、作業負担者が農地耕作者に限定されれば、耕作者には大きな負担が生じる可能性がある。
・ 維持管理会ごとの管理作業日程・内容がことなることから、複数の維持管理会区域をまたぐ耕作者は作業内容への不満や戸惑いが見られる。こうした負担も、規模拡大が進行する中で大きくなる可能性がある。
B 農地部分の水利施設の維持管理への参加を増やすために考えられる事
・ 非農家にとって利益を感じる水路づくりや取り組み
・ 維持管理の負担者を耕作者から土地所有者へ変える
・・・といったことをまとめている。はず。
政策を論じ、その影響をインタビューするというのはわかりやすい手法と言えば分りやすい手法なんだけど、どの程度正確な議論であるかを確かめる術がない。言いっぱなしになり易い処がある。この論文にそうした良くない「農経アプローチ」の片鱗が見え隠れする。
もちろん、それは、私自身の調査能力の不足と、事前の仮説設定ができていなかったことに原因がある。
今後の反省材料としたい。
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