2010年2月26日金曜日

農山漁村の資源活用フォーラム

・・・というものが2月23日にありました。
見に行ったわけではなく、分科会の講師を任されました。

駆け出し貧乏人の私にとっては謝礼が!名誉なことで、非常にありがたい経験でした。

内容についてここにUPしたいと思っているのですが、4月10日の学会報告の内容を含んでいるので
資料をそのまんま上げるのはもう少し先にさせてください。

内容は3章建て、5つのパートでした。順に

①社会科学者は農村で何をしているのか

②-1 聞き取り調査から注目する、土地改良区という組織の仕組み

②-2 データを用いた、農家のネットワークの分析

③-1 水路の情報、分析結果を伝えるツールとしてのGIS(geographic Information System)の使い方

③-2 データを使ってもらい、「住民自身が水路の使い方を決める」ワークショップの方法

大体こんな感じです。


反応ですが、まず一番多かったのは「うちの土地改良区にはそんなデータはない」といった文政手法への否定的な意見。ただ、これはおそらく誤解だろうと思います。というのも、僕が使ったデータは、土地改良区が賦課金を徴収するために使っている資料に書いてあるデータなので、「お金を集めている土地改良区なら絶対あるデータ」と言って問題ない。当然、お金を集めていない(もしくは、集めきれていなくても、請求を出していない)土地改良区は無いはずですからね・・・。
この点は、つまり私のスライドに「分析データの詳細」が説明されていなかったことから来た誤解だと思われます。自分の不備であり、反省点です。


次に多かったのは「分析した場所ではそうなんでしょうが、うちの土地改良区ではね・・・」という反応。これは確かに批判として一理ある。ある国営規模の土地改良区さんの管内で、私の分析がしらみつぶしにできるか、といわれると自分も自信はない。もうすこし手法が洗練されたら別かもしれないけれど。

最後に、積極的な内容の解釈への質問。特に印象に残った質問が二つ。


一つ目は「地域用水が農業用水に変わった」というが、地域用水としての側面と農業用水としての側面をどのように分けているのか、という質問。これは、私の分析では維持管理の範囲が「農家は農地部分、非農家は住宅付近」という現状から表現したものです。住民=農家だった時代には、この変化は「地域用水=農業用水」の構図を変えていないので問題ないのですが、現在起っているのは非農家(元農家)の拡大です。彼らが「自分の住んでる所だけで済ませたい」と言えば、残った農家の負担はどんどん拡大します。用水が「農業用水」であれば、そういった農家の負担増に進む可能性は大きいのではないかと考えます。

二つ目は、「維持管理の負担を耕作者だけで背負うのはやはり無理だという認識か」という問いです。私の対象地域では、下部組織が非農家や工場に面積割の賦課金を掛けていたり、所有者が原則組合員になっているので、耕作者に賦課金や管理活動が集中するという状況にはないようですが、多くの地域ではそうではないのだなと察せられます。
賦課金の徴収率についても、私の対象地域はほぼ100%徴収を達成していて、その原動力と思われる区単位徴収・奨励金(還付金)システムに質問が相次いでいました。

もう少し分析が進んで、「維持管理行動や合意形成にプラスの要素は何か」といったことを具体的に言えると良かったのでしょうが、まだもう少し時間がかかりそうです。
そういう意味でも、今回の報告は、改めて土地改良区というものの多様性と複雑さを思い知らされることになりました。
まだまだ修行が足りませんね。

ちなみに、打ち上げで「なんでこの時期にこのイベント?」と聞いたところ、コーディネーターが「平成22年2月22日なんて二度とないタイミングじゃないか!」ということで決まったらしい。なんじゃそりゃ・・・。しかし楽しいイベントでした。ご参加いただいたみなさん、スタッフの県職員の方々、パネリストの先生方、そして、私の分科会を聞きに来ていただいた35名の皆さまに厚く御礼申し上げます。

2010年2月19日金曜日

初めての投稿論文

投稿した論文が掲載されました。

査読されるというのは初めての経験でした。何より、内容や議論の進め方、本当に共著者のお二人にお世話になりました。聞き取りをベースとする論文の内容というのはなかなかに難しく、はたしてこれで何を調べたかったのか、当初の想定はどの辺に飛んでいったのか、何より、この論旨から何か出てくるのか、自分自身も読み返して良くわかっていない代物なのかもしれません。

とりあえず、現地報告に用いた資料を使って、内容を要約すると、




【新しい社会関係(土地改良区)とその課題】

土地改良区と、複数の維持管理会を比較することで、土地改良区単位での協調行動が低調である原因を3点にまとめた。

       土地改良事業によって、水の希少性が解消されたため、協調行動の必要性が薄くなった。
       土地改良区・維持管理会は集落より広範で、線引きが人工的であるため、信頼や規範が形成されにくい。
       土地改良区・各維持管理会は、それぞれ独立した意思決定組織であるため、土地改良区は水の分配に、維持管理会は担当地域の管理に集中しがちになりやすい。

【古来の社会関係(集落)とその課題】

 末端水路の維持管理を行っている集落の現状と課題を、特に農家と非農家の水路をめぐる認識の違いとしてまとめた。

       農家:農業用水の受益範囲=集落内水路+農地部分の水路
一本の水路として、非農家も農業用水路・排水路を利用し、利益を得ている。
       非農家:農業用水の受益範囲=集落内の水路
各家庭への引水・消流雪用水として使われる範囲が非農家の受益範囲、  残りは農家の受益範囲と認識

 【水利システムから得た結論】

維持管理行動を共同で行う単位は、受益者意識を共有する範囲によって決まる。

当該地域では、以下の二点が受益者意識に影響を与えている。

     土地改良事業の結果、上流・下流、取水口の位置による有利・不利が解消し、土地改良区管内の水利条件がほぼ均一化した。 この事が土地改良区管内での協調行動の必要性が減少する原因となっている。
     土地改良の過程で、地域用水が農業(専用)用水に再編された、と考えられた。 この事から、生活用水路としての利用部分を除いて、水路の受益者が農家に特定されたという認識が生まれた。

今後の課題】

A     農村の変化と農地・水・環境保全向上対策で想定される「地域ぐるみ管理」の現実

  管理作業の分担を、農家・非農家で分けることはマニュアル上問題無い。しかし、農業従事者が減少していった場合、作業負担者が農地耕作者に限定されれば、耕作者には大きな負担が生じる可能性がある。

  維持管理会ごとの管理作業日程・内容がことなることから、複数の維持管理会区域をまたぐ耕作者は作業内容への不満や戸惑いが見られる。こうした負担も、規模拡大が進行する中で大きくなる可能性がある。


B     農地部分の水利施設の維持管理への参加を増やすために考えられる事

  非農家にとって利益を感じる水路づくりや取り組み
  維持管理の負担者を耕作者から土地所有者へ変える

・・・といったことをまとめている。はず。

政策を論じ、その影響をインタビューするというのはわかりやすい手法と言えば分りやすい手法なんだけど、どの程度正確な議論であるかを確かめる術がない。言いっぱなしになり易い処がある。この論文にそうした良くない「農経アプローチ」の片鱗が見え隠れする。

もちろん、それは、私自身の調査能力の不足と、事前の仮説設定ができていなかったことに原因がある。

今後の反省材料としたい。

中山間地域フォーラム2021年度シンポジウムのお知らせ

 私が所属するNPO法人中山間地域フォーラムのシンポジウムが7月10日(土)にオンラインで開催されます。 タイトルは「 新たな農村政策を問う ~農村発イノベーションは広がるか 」です。  基本計画が新しくなり、新しい農村政策に関する有識者の提言もなされました。現場の新しい活動と、...