2013年8月10日土曜日

2013年寒河江市田代実習

田代に行ってきました。
私が学生として最初に訪問したのが2003年ですから、もう10年以上になりますか。時がたつのは早いものです。

 実習は、田代公民館での宿泊を伴って行われました。また聞き取り調査には、寒河江土地改良区・市役所・JA西村山等の関係各機関の方にお時間を割いていただきました。御存じのとおり、大変な豪雨災害の最中でした。関係各位には、改めて厚く御礼を申し上げたいと思います。
 幸い実習中は気候に恵まれ、雨も無く、暑すぎもせず、良い時間を過ごすことができました。
 学生は参加において必要な諸経費を自己負担していますが、一方で教員の公費・保険等については農林中央金庫様のご厚意に甘えております。寄付講座として支援を頂いていることにも感謝したいと思います。

1.実習の大雑把なまとめ

非常に簡単にまとめますと
8月3日 到着。ブナ林の下草刈り・蓮田(放棄地解消)の草取り


8月4日 個別農家での実習・聞き取り調査

8月5日 調査票のシェア・寒河江土地改良区での聞き取り調査・農家との交流会
8月6日 直売所見学・寒河江市関係諸団体の方との懇談会
(※写真は、学生さんから提供いただいたものです)

 天候に恵まれたことと、実習14年目という安定感から、農作業体験は非常にスムーズでした。すべてのグループを回りましたが、おおむね①サクランボ園の下草刈り・土づくり等の基礎的作業②ブルーベリー・カボチャ等の収穫作業の2パターンに別れていたように思います。もちろん、①が男子学生受け入れ先、②が女子学生です。

 聞き取り調査と言っても、きちんと調査をするというよりは「調査を通じて田代の生活や農家の意識を知る」方がメイン。なので、食事を取りながらまったりやる家が殆どだったと思います。
 山形牛や刺身、天ぷらに加えて、岩カキを食べたとかいう家もあったなあ。庄内で岩カキもらったのはもう6年前か。懐かしや。

2.調査講評

そうは言っても、「調査に行ってやったこと」は残したい。ので、調査内容とその講評を、次回の反省のためにまとめてみます。

①調査票

・・・良く埋めてきました。正直に言って驚きました。おかげで、基礎データと、班別テーマの双方について、有意義なシェアができました。

②基礎データ

農家労働時間・収入・家族構成・農地面積関係についてのデータが、受け入れ8軒すべて揃いました。おかげで、専業・兼業、他出家族の状況、農家の世代の違い、作目別の農家行動の違い、などが把握できそう。
 これを、班別のデータの分布とクロスさせれば、少なくとも何らかの相関くらいまでは見つけられるかもしれない。今後の報告に活かされるように、私の方でも(清書提出後に)集計してみようかなと思います。
 いやほんとに5年に一度これをやっていればデータになったのに、、、という感はありますが。

③班別データ

参加学生の関心で分けたテーマ、全てに触れませんが、全体の傾向だけ。
耕作放棄・ブランド化・観光(まちおこし?)等、農村問題の定番に加えて、地域医療・学校閉校問題(昨年、小学校が閉校した)の2つがユニーク。この辺は、いかにも農学部が無い大学っぽい作りです。まあ、私も専門じゃないということですが。

 耕作放棄に関しては、多くの農家が植林による解消を挙げていました。耕作放棄地を抱えている人の「放棄の動機」も、災害に伴うものが非常に多く、まさにこの地域の放棄地は作目別費用曲線が耕作限界を超えた、と表現するしか無さそうです。
 逆に、最終日の市役所での議論では、自給率向上などの「思い」を重視する意見があった。過疎地域の「農地保全」と「平場の論理」の微妙な違いは、学生にはさぞ勉強になったことでしょう。これが社会科学の現場というやつですね。

 小学校の閉校問題は、実は私が学生のころから議論のテーマになっていました。しかし、現実に閉校になった今、むしろ議論への関心は薄まった感じがしました。閉校は、住民にとって断腸の結論かもしれません。なので、寝た子を起こさない議論が肝要でしょう。うまく議論の方向性をリードする必要がありそうです。
 この点で非常に興味深かったのが、田代の地域活性化として小学校を活用する計画が農家から盛んに出た事です。観光・村おこし系の質問票に書かれた「作ってみたい施設」について、小学校跡地の活用プランとリンクして語る人が非常に多かったらしい。
 なるほど、こういうlinkも起きうるのか。実態調査の偶然というのはいつも面白いものです。後期になったら、観光班の再編をやってもいいかなと思いました。

 地域医療については、「診療所の回診」重視派と「市中総合病院」重視派の農家がいることがわかりました。これ、何かの基礎データの中に相関がないかしら?うまくいけば、王道の実態調査と考察ができそうな、骨太テーマになりそうな予感がします。ま、私は医療問題について無知なんだけど・・・。

3.反省点

事務的な反省は抜きにして、一番の問題点は農作業のけが人でした。鎌の使い方や、手袋の用意、さらには増水した川(用水)に近づくなど、一歩間違えれば事故になっていてもおかしくないケースが多々ありました。これらに関する簡単な指示をするには、まず作業内容を事前に把握する必要があります。
 現地との連絡の強化、また、ここでもTAとの役割分担が重要ですね。

4.今後の実習について

調査票の負荷の問題、学生受け入れ農家の高齢化にも対応していかなければなりません。80歳になっても元気にマニュアル車で学生を回収し、23時に送ってくるお爺ちゃんも現にいるのですが、、、、しかし、何らかの対策を考えないといけないでしょう。
 その点、調査票の充実を教育サービスの柱にしていた今年度の私の方針は軌道修正が必要です。来年度の実習に向けて、今年の経験を活かすとしたら、以下の2点が重要かな、と考えています。

 一つは、調査票によるデータ把握は5年くらい止めてしまい、別の調査をする、というパターンです。オーラルヒストリーとか、一度やってみたいですよね。他にも、かつて東大中嶋研究室でやっていたような「まち歩き→地域計画」のワークショップ。これは一応段取りは判る。
 いずれにせよ、不完全な「農家調査」よりも、もう少し包括的な「集落調査」にする方が、調査として地域にも還元しやすいような気がするのです。それに、これはいわゆる「若者馬鹿者よそ者」の早稲田生が持つ3要素を活かしやすいとも思われます。一つの検討課題かな、と思います。

二つ目は、個々の援農だけではなく集落の役に立つ作業をする、という方向です。今年の蓮田が耕作放棄地対策事業の一環であるという話を聞き、実は「我々が田代地区の役に立ったのは初めてじゃないか?」と思いました。もっとこのパタンをやれないだろうか?
 長年続く実習ですが、良くも悪くも、山村のホスピタリティに乗っかる部分が多くなっています。このままでは、学生への理解のある受け入れ農家は別として、無関係な他の住民の方からすると、学生が気味の悪い存在に変わる危険性もあるでしょう。耕作放棄地でも、道路の砂利敷きでも、若い労働力をもっと集落に提供できるプランが必要かな、と思います。

まあ、大体こんなところでしょうか。

 今年も、「また来たい」という学生がたくさんいたことが、何よりも嬉しかったです。少しでも田代ファンが増え、あの農村の事を大切に思う人が出来たのなら、まずは体験実習の最低限の成果が挙がったものと言えます。
 次のステップは、田代集落に何ができるか。これは、教員としても考えなければいけない問題です。自分のできる範囲で、来年に向けて考えていきたいと思います(とか言って雇止めされたりしてね。。。)

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