2011年4月15日金曜日

書籍紹介『書をもって農村へ行こう』

表題の本が早稲田大学出版会から出ました。




書を持って農村へ行こう―早稲田発・農山体験実習のすすめ


私も4章と7章を執筆しています。また、編集の会議にも当初から出ておりましたので、ある程度どう意図を持った本なのか、どんな人に読んでもらいたい本なのか、と言った点を議論してきました。

また、書籍そのものがオムニバス型の本でもあり、編著者のまとめとは若干異なるかもしれない一執筆者の意見も記しておくと、もしかしてこの本に興味を持ってくれた方には参考になるかもしれないと思いました。

そこで、やや長いですが、私なりのこの本の紹介をここに書いておこうと思います。



まず、何より最初に、この本に書けなかったことがあります。

それは、今回の東北関東大震災の被害者の方たちへのお見舞いです。

この本で取り上げている岩手県田野畑村が、まさに津波の直撃を受けました。私は田野畑には行ったことがないので、地域の地理に詳しいわけではありません。ただ、新聞で2,000戸あまりの家々が流されたと、その報道で知るばかりです。
追記の形で書かれておりますが、本の印刷所行きの日が、まさに震災の当日でありました。農村に刻まれた多くの想い出の記憶が、現実の世界では、逆らえない力によって奪い去られてしまった。それは悲しく、悔しいことです。

今は、地域の人たちが、少しでも元の生活に戻れるよう、私たちにできる支援を考える事が大切だと思います。田野畑を取り上げた2章にあるように、早稲田大学の学生がこの村に入ったのは、火災で失われた山林を蘇らせるため、村の人たちとともに山村を育てていくためでした。爾来50年、この悲劇的地震を受けてもなお、私たちと田野畑とのつながりは、そのモチベーションの延長にあると思います。
今、学生が突然田野畑にはいる事は難しいでしょう。しかし、かならず、あの村に学生が戻り、住民の方と語り合う時が戻ってくると信じたいと思います。



それでは、この本について、3点の紹介をしようと思います。まず、1つ目は、この本を出そうと言う動機、目的です。2つ目は、私の担当した二つの章について、です。それから蛇足を少し書きます。

1つ目から行きます。この本を出そうと言う動機についてです。これは明確に、2点あります。

  1. 農村に関心のある学生、国内でのボランティアに関心のある学生に、農業をテーマにした講義・サークルやボランティア活動の存在を伝える
  2. 早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(以下WAVOC)を通じた活動の一環として、農村で行われてきた学生と農村との往還の記録を通じて、その仕組みを公開する
1は、いわば参加してもらう対象としての学生にとっての「読みどころ」です。本の中では、新潟県松代・岩手県田野畑・山形県高畠・山形県田代・福井県三国・千葉県南房総市(旧三芳村)などの農村が至る所に登場します。できるだけ実際の活動がリアルに伝わるよう、写真やドキュメントタッチの描写を心がけました。

学生に限らず、日本の農村に興味のある方が、この本を使って(書を以て)、農村を体験して頂けると書き手の側としてはうれしいです。もちろん、物足りないはずですので、そう思ったら、実際に現地に乗り込んでください(書を持って・・・でも重いから置いていってもいいです)

2は、学生を送り出している側の「いいわけ仕掛け」です。これは、学生さんと言うより、こうした都市農村交流にかかわっているオトナの皆様(行政・大学などなど)に読んで頂ける事を想定しています。制度的な部分の紹介は6章「農山村とフィールド教育」で説明されています。

主な実習地である田野畑・高畠・田代・三国をタイプ別に分類しています。どんな地域で、どんな活動の特徴があるのか。そうしたバラバラな活動を、座学の授業でどうやって集約していくのか、説明しています。
また、こうした仕組みに対して「学生はどんな反応を示すのか?」も当然気になる所だと思います。それは7章で説明しています。



次に、わたしが書きました二つの章について、詳しく書いておこうと思います。


4章で取り上げた、山形県寒河江市田代地区は、本当に日本のどこにでもある山間集落です。だからこそ、「なぜ、このムラは、12年も大学生を受け入れ続けているのか?」ということに焦点をあてました。始まりの動機、受け入れ組織の努力、そして実習の中身。最後に、簡単な今後の持続可能性にも考察を広げています。

こんな村、なかなかない。確かにそうだと思います。でも、実は、田代が持っている要素は、日本のいろいろなところに眠っているものでもあると思います。



7章は、学生側からの視点です。農山村体験実習という講義を受けた、学生たちのその後に焦点をあてています。どちらかというと、私自身も含めた「回顧録」でもあります。

また、十分に触れることができなかったのですが、早稲田大学ボランティアセンターで提供している、千葉県南房総市旧三芳村での農業ボランティアにも少し触れました。詳しくはこちら このプロジェクトは、立ち上げのときからずっと私がかかわり、引率もこなしてきたプロジェクトです。今も綿々と続く、ため池整備と有機農業のお手伝い。これからも続いて行ってもらいたいと思います。
個性的な関係者の皆様のますますのご健康をお祈りしています。




蛇足ながら、私がこの執筆に参加したモチベーションは、7章の座談会にあります。

私は、都市農村交流の視点とともに、7章で取り上げた農楽塾を大学の間中やっていました。このメンバーで、自分たちのやろうとした事、そして、その結果を、どうにか形にして残しておきたい、そんな思いがありました。今回の話が来て、まず最初に思ったのは、「農楽塾の誰を呼ぼうかな」でした。本当はもっと参加してもらいたかった人がいっぱいいます。ただ、歴史を振り返る上で外せないメンバーに絞って登場してもらうことになりました。

おかげで、「農村に触れた学生たちのその後」、そして、「自分で農業をやろうとする学生の苦闘」がをうまく記録できたと思います。

座談会に集まってくれた、4人の友人に御礼を言います。ありがとう。

みなさん、かけがえのない、また、誰にもはばかることのない、本当に素晴らしい友人たちです。

農楽塾は立ち上げの経緯もあってか非常に仲が良くて、卒業後5年近く経つのに、いまだに3カ月に一度は10人以上集まって旅行したり飲みに行ったりしています。この座談会の日は、実は早稲田祭の日でした。座談会に行く前、早稲田王決定戦を見て校歌と紺碧を歌いました。終了後、馬場で待機していた他のメンバーと居酒屋にて飲みました。4人の言葉は、彼ら全ての声の代表だと思います。かけがえのない、生涯の友人たちとともに、この本が残せることを、私は密かに、一番の誇りとしています。




私としては、この本はいろいろな実習形態を通じた、早稲田の農村実習の紹介であり、学生たちと、地域の農家さんたちとの往還の記録であると思っています。それは、単なる内輪の振り返りだけではなく、多くの人たちに何かしらの「気づき」をおすそ分けできると思っております。そうした「気づき」が、やがて農村へ目を向ける大きな力になっていくことを願っています。


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 私が所属するNPO法人中山間地域フォーラムのシンポジウムが7月10日(土)にオンラインで開催されます。 タイトルは「 新たな農村政策を問う ~農村発イノベーションは広がるか 」です。  基本計画が新しくなり、新しい農村政策に関する有識者の提言もなされました。現場の新しい活動と、...